長唄「竹生島」

唄と三味線:東音大宮悟

歌詞
《次第合方》謡ガゝリ〽︎竹に生るゝ鶯の、竹に生るゝ鶯の、竹生島詣で急がん、
ワキ(言葉)「是は竹生島参詣の者にて候、さても神霊あらたにましまして、島の渡りもいと易く、誓いの船に乗りて候、
本調子〽︎弥生半ばの海の面、霞みわたれる朝ぼらけ、長閑に通う船の路、憂き業となき心かな、〽︎此浦里に住み馴れて、明暮運ぶ鱗(うろくず)の、数を尽すや釣人の、誓いの船に法の道、〽︎比良の根颪吹くとても、沖漕ぐ船はよもつきじ、旅の習いの思わずも、雲井のよそに見し人も、同じ小船に馴れ衣、
謡ガゝリ〽︎あれ竹生島も見えたりや、
シテ(言葉)「船が着きて候、御上り候え、
ワキ(言葉)「不思議やな、此島は女人禁制と承り候うに、あれなる女人は何とて参られ候うぞ、
シテ(言葉)「それは知らぬ人の申す事にて候、恭くも此島は、九生如来の御再誕、
〽︎そりや言わいでも住の江の、松の非情も妹と背の、其あい中は有るものを、弁財天は女体にて、結ぶ縁の糸竹に、道も守りてあらたなる、天女と現じましませば、女子に隔てなみならぬ、深き心の願事も、利生は更に怠らず、
〽︎何の疑い荒磯の、島松影の蜑小舟、乙女の姿忽に、社壇の扉へ入るよと見えしが、又釣人も立帰り、波間に入らせ給いけり、
〽︎実に実にかゝる有様に、信ずる心弥勝る、神の示現を松の影、
《出端合方》〽︎御殿頻りに鳴動して、光り輝く日月の、山の端出づる如くにて、顕われ給うぞ恭き、
〽︎抑是は此島に住んで、神を敬い国を守る、弁財天とは我が事なり、
〽︎虚空に音楽数々の、虚空に音楽数々の、花降り下る春の夜の、月に輝く乙女の袂、返す返すも面白や、
《神舞の合方》〽︎夜遊の舞楽も時過ぎて、夜遊の舞楽も時過ぎて、月澄みわたる海づらに、波風頻りに鳴動して、下界の龍神顕われたり、《早笛の合方》
〽︎龍神湖上に出現して、《舞ハタラキの合方》〽︎龍神湖上に出現して、光も輝く金銀珠玉、彼の賓(まれびと)に捧ぐるけしき、有難かりける奇特かな、有難かりける奇特かな